呼吸器内科の第一線で診療にあたっている専門医に、痰が絡む咳が続きながらも熱が出ないケースについて話を伺いました。「患者さんの多くは熱がないことに安心して受診を先延ばしにしますが、実は微熱さえ出ない状態のほうが、疾患が根深く慢性化しているサインである場合が多いのです」と医師は語ります。専門医が最も警戒するのは、高齢者の「不顕性肺炎」や大人の「COPD」です。高齢者の場合、免疫機能が低下しているため、肺の中で激しい炎症が起きていても脳の体温調節中枢が反応せず、熱が出ないまま病状だけが悪化することがあります。また、COPDはタバコの煙などで肺胞が壊れる病気ですが、これは初期には熱を伴わず、ただ毎朝痰が絡む咳が出るだけという静かな始まり方をします。医師は、診断の難しさについても言及されました。「咳と痰を主訴に来る患者さんに対し、私たちは単に風邪薬を出すのではなく、まず『肺の機能がどの程度残っているか』を評価します。特にスパイロメトリーという肺活量の検査は、見かけの元気さとは裏腹に、肺が実年齢よりも20歳も30歳も老けてしまっている現実を突きつけることがあります」とのことです。また、現代のビジネスパーソンに多いのが、ストレスによる自律神経の乱れからくる咳です。しかし、これも単なる心理的なものではなく、物理的な変化を伴います。自律神経が乱れると喉の粘膜が乾燥しやすくなり、そこに微細な埃がつくことで、脳が異物を排出しようと過剰に反応して咳を作り出します。医師からのアドバイスとして、受診前に確認してほしいのが「自分の呼吸数」だそうです。安静時に1分間の呼吸が20回を超えている場合、それはたとえ熱がなくても、心臓や肺が酸素不足に喘いでいる証拠です。インタビューの最後に医師はこう締めくくりました。「痰が絡む咳は、あなたの体が懸命に気道を掃除しようとしている努力の証拠です。でも、掃除が何週間も終わらないということは、掃除すべきゴミ(原因)が次々と供給されているか、あるいは掃除機(肺の機能)が故障しているかのどちらかです。その原因を特定できるのは、ネットの検索画面ではなく、私たちの診察室です」。プロフェッショナルの視点は、私たちが「些細なこと」として流してしまいがちな不調の奥底に、生命のドラマを読み取ります。熱計の数字に一喜一憂するのをやめ、医師という伴走者とともに、一生物の呼吸器をメンテナンスする意識。これこそが、情報化社会を賢く生きる大人に求められる、真の健康リテラシーなのです。
呼吸器内科医に聞く!熱なしの咳と痰が示す慢性疾患のサイン