仕事の締め切りに追われていた10月の半ば、私の体の中に静かに異変が忍び寄っていました。最初は喉の奥に小さな棘が刺さっているような違和感でしたが、翌朝には38度近い熱が出て、体中の節々が重だるくなりました。近所の内科で「一般的な風邪」と診断され、解熱剤を飲んで2日ほどで熱は下がりましたが、本当の戦いはそこから始まりました。熱が引いたのと入れ替わるように、胸の奥から込み上げるような激しい咳が出るようになったのです。一度咳き込み始めると肺の中の空気をすべて吐き出すまで止まらず、夜も1時間おきに目を覚ますような日々が1週間続きました。市販の咳止めを飲んでも全く効果がなく、不安になった私は別の呼吸器専門のクリニックを受診しました。そこで医師から提案されたのが、マイコプラズマを疑うための血液検査でした。正直なところ、採血だけで何がわかるのかと半信半疑でしたが、腕から数ミリリットルの血を抜かれ、結果を待つ数日間は生きた心地がしませんでした。もし重い病気だったらどうしようという恐怖が頭をよぎりましたが、4日後に告げられた結果は「マイコプラズマ抗体価の異常な高値」でした。私の体内の免疫システムは、知らないうちにマイコプラズマという細菌と総力戦を繰り広げていたのです。血液検査の数値という客観的なデータを目にした瞬間、あんなに不安だった気持ちが嘘のように消え去りました。自分の苦しみには明確な名前があり、それを治すための特定の薬(マクロライド系抗菌薬)があることがわかったからです。処方された薬を飲み始めると、あんなに執拗だった咳が、3日目には驚くほど穏やかになりました。今回の体験で痛感したのは、自分の体力を過信して不調を放置することの危うさです。大人の体において「熱がないのに咳が続く」という状態は、もはや自力で解決できる範疇を超えています。血液検査は、言葉にできない体内の悲鳴を具体的な数字へと翻訳してくれる、医学の通訳者のような存在でした。もしあの時、血液検査を受けていなかったら、私は今もなお咳に耐えながらボロボロの体で仕事を続けていたかもしれません。14日間という時間は長かったですが、自分の血の中にある「戦いの記録」を確認できたことは、本当の意味での回復に向けた最初の一歩でした。