「いちご舌」というと、多くの人は溶連菌感染症などの感染症を思い浮かべるかもしれませんが、実は「栄養不足」、特にビタミンB群の欠乏が原因で、舌が赤く腫れて、いちご舌のように見えることがあります。これは「舌炎(ぜつえん)」の一種で、体からの栄養不足を知らせる重要なサインかもしれません。舌の表面は、体の他の部分に比べて細胞の新陳代謝が非常に活発なため、栄養状態の変化が影響として現れやすい場所です。特に、エネルギー代謝や細胞の再生に不可欠なビタミンB群が不足すると、舌の粘膜に異常が生じやすくなります。ビタミンB群の中でも、特に舌炎と関係が深いのが、ビタミンB2、B6、B12、そして葉酸などです。これらのビタミンが不足すると、舌の表面を覆っている糸状乳頭が萎縮してしまい、舌全体が平坦でツルツルした見た目になります。そして、茸状乳頭という味を感じる部分が炎症を起こして赤く腫れ上がり、まるで舌の表面に赤いブツブツができたように見えるのです。これが、感染症によるいちご舌と似た状態を引き起こします。舌の症状の他に、口角炎(口の端が切れる)や口内炎を併発することも多く、舌にピリピリとした痛みや、食べ物がしみるといった灼熱感を伴うこともあります。このようなビタミン欠乏による舌炎は、偏った食生活や過度なダイエット、アルコールの多飲などが原因で起こることがあります。また、胃の切除手術後や、胃粘膜の萎縮によってビタミンB12の吸収が悪くなる「悪性貧血」といった病気が背景に隠れている可能性も考えられます。もし、感染症を疑うような高熱や喉の痛みがないにもかかわらず、舌の赤みや痛みが続く場合は、まず食生活を見直してみることが大切です。レバーや卵、乳製品、緑黄色野菜など、ビタミンB群を豊富に含む食品をバランス良く摂取することを心がけましょう。それでも症状が改善しない場合や、強い疲労感などを伴う場合は、内科を受診し、血液検査などで原因を調べてもらうことをお勧めします。舌は、健康のバロメーター。その小さなサインを見逃さないようにしましょう。
ノロウイルス治療の現実。特効薬がない中でできること
ノロウイルス感染症にかかると、その激しい症状から、すぐにでも効く薬を処方してほしいと誰もが願います。しかし、残念ながら、2024年現在、ノロウイルスそのものを退治する「抗ウイルス薬」、いわゆる特効薬は存在しません。また、ウイルスが原因であるため、細菌を殺すための「抗生物質」も全く効果がありません。では、病院ではどのような治療が行われるのでしょうか。ノロウイルス感染症の治療は、主に「対症療法(たいしょうりょうほう)」が中心となります。対症療法とは、病気の根本原因を取り除くのではなく、現れている個々のつらい症状を和らげ、体の自然治癒力をサポートする治療法です。ノロウイルスで最も危険なのは、激しい嘔吐と下痢によって引き起こされる「脱水症状」です。そのため、治療の最優先事項は、失われた水分と電解質を補うことにあります。軽症の場合は、経口補水液(OS-1など)を少量ずつ、こまめに飲むことが推奨されます。しかし、嘔吐がひどく、経口での水分補給が困難な場合は、医療機関で「点滴(輸液療法)」を受ける必要があります。これにより、直接血管に水分と電解質を送り込み、脱水状態を速やかに改善させます。次に、個々の症状を和らげるための薬が処方されることがあります。例えば、吐き気が強い場合には「制吐剤(吐き気止め)」、下痢による腹痛や腸内環境の乱れを整えるために「整腸剤」が用いられます。ただし、下痢は体内のウイルスを排出しようとする体の防御反応でもあるため、自己判断で市販の強力な下痢止め(止瀉薬)を服用するのは避けるべきです。ウイルスが腸内に留まり、かえって回復を遅らせる可能性があります。高熱が出ている場合には、「解熱剤」が処方されることもあります。これらの薬は、あくまで症状を緩和するための補助的な役割です。最終的にノロウイルスを体から追い出すのは、自分自身の免疫力しかありません。したがって、治療の基本は、脱水を防ぎながら、できるだけ体を休めて、免疫力がウイルスに打ち勝つのを待つこと。これが、特効薬のないノロウイルス治療の現実なのです。
家庭でできるノロウイルス対策。二次感染を防ぐ方法
家族の一人がノロウイルスに感染してしまった時、最も恐ろしいのは、その驚異的な感染力によって、あっという間に家庭内に感染が広がってしまう「二次感染」です。適切な知識と対策がなければ、看病している家族も次々と倒れてしまい、家庭機能が麻痺してしまう危険性があります。二次感染を防ぐためには、家庭内での徹底した衛生管理が不可欠です。まず、最も重要なのが「吐瀉物(としゃぶつ)と便の適切な処理」です。ノロウイルスの粒子は、感染者の吐瀉物や便の中に大量に含まれています。処理をする際は、必ず使い捨てのマスクと手袋を着用し、窓を開けて十分に換気を行いましょう。吐瀉物は、ペーパータオルなどで外側から内側へ、静かに拭き取ります。その後、拭き取った場所を中心に、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤を薄めたもの)を浸した布で、広めに消毒します。使用したペーパータオルや手袋などは、すぐにビニール袋に入れて密封し、廃棄してください。ノロウイルスには、一般的なアルコール消毒が効きにくいという厄介な性質があるため、次亜塩素酸ナトリウムでの消毒が基本となります。次に、「手洗い」の徹底です。看病する人はもちろん、家族全員が、トイレの後、食事の前、外出から帰宅した際には、石鹸と流水で30秒以上かけて丁寧に手を洗いましょう。爪の間や手首までしっかりと洗うことが重要です。また、「タオルの共用」は絶対に避けてください。トイレや洗面所の手拭きタオルは、ペーパータオルに切り替えるのが最も安全です。食器や衣類の扱いにも注意が必要です。感染者が使用した食器は、可能であれば最後に洗い、洗浄後は熱湯をかけるなどして消毒するとより安心です。下痢便や吐瀉物が付着した衣類は、他の家族の洗濯物とは別にし、まず水で十分に洗い流した後、次亜塩素酸ナトリウムに浸け置きしてから洗濯機で洗いましょう。これらの対策は、手間がかかり大変ですが、一つ一つを確実に行うことが、二次感染を防ぎ、家族を守るための最も確実な方法なのです。
子供がノロウイルスに。親が知っておくべきサインとケア
子供、特に乳幼児は、大人に比べて体の抵抗力が弱く、ノロウイルスに感染すると重症化しやすい傾向があります。突然の嘔吐や下痢に慌ててしまうかもしれませんが、親が冷静に、そして正しく対処することが、お子さんを安全に回復へと導く鍵となります。まず、親が知っておくべき最も重要なことは「脱水症状のサイン」を見逃さないことです。子供は体の水分量が少なく、嘔吐や下痢で容易に脱水に陥ります。危険なサインとしては、「おしっこの回数や量が極端に減る(半日以上出ていない)」「泣いても涙が出ない」「口の中や唇がカサカサに乾いている」「目が落ちくぼんでいる」「ぐったりして活気がない」などが挙げられます。これらのサインが見られた場合は、すぐに小児科を受診する必要があります。家庭でのケアの基本は、とにかく「こまめな水分補給」です。ただし、一度にたくさん飲ませると、それが刺激となって再び吐いてしまうことがあります。乳幼児用の経口補水液や、湯冷まし、麦茶などを、スプーン一杯やペットボトルのキャップ一杯分といったごく少量から始め、5分から10分おきに根気強く与えましょう。母乳やミルクを飲める場合は、いつも通り与えて構いません。食事は、無理に食べさせる必要はありません。症状が落ち着き、本人が欲しがるようになったら、おかゆやよく煮込んだうどん、すりおろしたりんご、野菜スープなど、消化が良く、胃腸に負担のかからないものから少しずつ再開しましょう。そして、おむつ交換の際には、二次感染を防ぐための注意が必要です。おむつを替えるたびに、石鹸と流水でしっかりと手を洗いましょう。下痢便で汚れたお尻は、シャワーで優しく洗い流してあげると、おむつかぶれの予防にもなります。何よりも大切なのは、お子さんを安心させてあげることです。つらい症状で不安になっている子供のそばに寄り添い、背中をさすってあげるなど、精神的なサポートも忘れないでください。そして、少しでも様子がおかしい、判断に迷うと感じたら、ためらわずに、かかりつけの小児科医に電話で相談することが重要です。