忘れもしない去年の冬、3歳の息子が突然の激しい咳に見舞われました。昼間は鼻水が少し出る程度で元気に遊んでいたのですが、夜22時を過ぎた頃から状況が一変しました。寝室から聞こえてくる「コンコン」という音が次第に激しさを増し、ついには1分間も止まらないほどの咳き込みになったのです。私は慌てて寝室へ駆け込み、息子を抱き起こしました。息子の顔は真っ赤になり、必死に空気を吸い込もうとしていましたが、そのたびに喉の奥から「ヒュー」という細い音が漏れていました。体温を測ると38度5分。私はパニックになりかけながら、スマートフォンの画面で「子供、咳、病院行くべきか」と何度も検索を繰り返しました。ネットの情報には「陥没呼吸があればすぐ病院へ」と書いてありましたが、暗い部屋で息子の胸の動きを見ても、それが本当に陥没しているのか判断がつきませんでした。息子は咳き込むたびに苦しそうに泣き、その涙と鼻水でさらに呼吸が苦しくなるという悪循環に陥っていました。時刻は深夜2時。救急外来へ行くべきか、朝まで待つべきか。夫と相談しながら、最後は私の「直感」が決め手となりました。いつもと違う、この子の目は助けを求めている。そう確信した私は、♯7119(救急安心センター)に電話をかけました。専門の看護師さんに息子の呼吸の音を電話越しに聞かせたところ、「すぐに指定の救急病院へ向かってください」と冷静な声で言われました。病院に到着し、医師に診てもらうと、診断はRSウイルスによる重度の細気管支炎でした。そのまま入院となり、酸素吸入と24時間の点滴治療が始まりました。医師からは「もう少し遅ければ呼吸不全になるところでしたよ。お母さんの判断は正しかった」と言われ、あの日、受診を迷っていた自分の背筋が凍る思いがしました。この体験を通して痛感したのは、素人が「様子を見よう」と判断することの危うさです。親は医学の専門家ではありませんが、我が子の「いつもと違う空気感」を察知する世界で一番の専門家です。もしあの時、ネットの情報を自分に都合よく解釈して朝まで寝かせていたら、私は一生自分を責め続けていたかもしれません。咳は単なる症状ではなく、時には命を脅かす嵐の予兆です。受診して「何でもなかったですね」と言われることが、親にとって最大の成功なのです。それ以来、私は迷ったら行く、を鉄則にしています。あの夜の息子の苦しそうな背中と、点滴を見つめながら祈った時間は、私を少しだけ強い母親にしてくれた、痛みを伴う大切な教訓となりました。