痰が絡む咳が続き、呼吸器内科や耳鼻科へ行っても「異常なし」と言われたとき、最後に見直すべきは自分の「胃」の状態かもしれません。意外に思われるかもしれませんが、慢性的な咳の原因の約10パーセントから20パーセントは、胃腸の問題、特に逆流性食道炎(GERD)であるというデータがあります。逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流して粘膜を刺激する病気ですが、その刺激が喉にまで及ぶと、体は「酸から粘膜を守れ」という指令を出し、大量の粘液を分泌させます。これが喉に張り付く「痰」の正体であり、それを排出しようとする反射が「咳」となって現れるのです。このタイプの不調には、熱が全くない、痰は透明で粘り気が強い、という特徴があります。また、特有の発生パターンが存在します。例えば、夕食を食べてすぐに横になった後や、朝起きた瞬間に咳き込む。あるいは、会話をしている途中に急に喉が詰まったようになり、痰を吐き出さないと声が出なくなる、といった症状です。大人の場合、仕事での会食や深夜の食事、コーヒーやアルコールの過剰摂取が、この逆流を助長させています。胃酸の逆流は、自律神経を介して気道を収縮させる作用もあるため、一見すると喘息と見分けがつきにくい「胃原性喘息」の状態を作り出すこともあります。もし、咳止め薬が全く効かない、あるいは胸焼けや胃のむかつきを自覚しているなら、一度消化器内科を受診し、胃カメラなどの検査を受けることを検討してください。日常生活でできるケアとしては、寝る前の3時間は食事を控えること、そして寝る際に上半身を少し高く(10度から15度程度)して休むことが、物理的な逆流を防ぎ、夜間の咳を和らげる効果があります。また、早食いや大食いは胃圧を高めて逆流を招くため、一口30回以上噛むという基本に立ち返ることも立派な治療となります。熱なしの咳が続くということは、体が何らかの「物理的・化学的刺激」に晒され続けているという結果です。原因が肺にあるとは限りません。自分の生活習慣を振り返り、胃からの悲鳴が喉で響いていないか、謙虚に身体の声に耳を傾ける必要があります。消化器、呼吸器、耳鼻科。私たちの体は一つの繋がった管であることを再認識し、多角的な視点から不調の原因を追い詰めていく姿勢が、長引く咳から解放されるための最短の地図となるはずです。
逆流性食道炎が引き起こす喉の違和感と痰が絡む咳の意外な関係