子供が突然の高熱を出し、数日後に熱が下がると同時に全身に発疹が現れる。これが典型的な突発性発疹の経過です。看病する親としては、こんなに強い感染症なら自分にもうつるのではないかと心配になるかもしれません。しかし、現実には、大人が突発性発疹を発症することはほとんどありません。その背景には、私たちの免疫システムと、原因ウイルスの巧みな生存戦略が隠されています。突発性発疹の原因ウイルスであるヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)は、非常にありふれたウイルスです。感染経路は主に、感染者の唾液に含まれるウイルスによる経口感染や飛沫感染と考えられています。多くの赤ちゃんは、生後半年頃になると母親から受け継いだ免疫(移行抗体)が切れてくるため、このタイミングで、両親や祖父母など、身近な大人とのスキンシップや、同じ食器を使うことなどを通じて、初めてウイルスに感染します。つまり、ほとんどの大人は、自分が気づかないうちに、すでにこのウイルスの「運び屋(キャリア)」となっているのです。そして、一度感染すると、ウイルスは体から完全にいなくなるわけではありません。ヘルペスウイルスの仲間に共通する特徴として、感染後は体内の唾液腺などに潜伏し、生涯にわたって共存し続けます。そして、体調が優れない時などに、唾液中に再びウイルスを排出することがあります。これを「再活性化」と呼びます。大人が突発性発疹にかからない最大の理由は、この「既感染」にあります。幼少期に一度感染し、体内に抗体を持っているため、たとえ子供から大量のウイルスを浴びたとしても、免疫システムがそれをブロックし、発症に至ることはないのです。これは、一度かかると二度とかからないとされる、はしかや水ぼうそうと同じ原理です。言い換えれば、大人が突発性発疹にかからないのは、強いからではなく、すでに感染済みだから、というわけです。このウイルスの巧妙な感染サイクルを理解すれば、子供が発症しても、大人が冷静に対応できる理由が見えてくるでしょう。
なぜ大人は突発性発疹にほとんどかからないのか