妊娠という喜ばしい時期に、もし水疱瘡にかかってしまったら。それは、お母さん自身にとっても、そしてお腹の赤ちゃんにとっても、非常に大きなリスクを伴う事態となります。妊娠中に水疱瘡に感染することは、決して軽視できない深刻な問題なのです。まず、妊婦さん自身への影響です。妊娠中は、体の免疫機能が通常とは異なる状態にあるため、一般の成人と同様か、それ以上に水疱瘡が重症化しやすいと言われています。特に、重篤な合併症である水痘肺炎のリスクが高まり、母体の命に関わる危険性も指摘されています。高熱や呼吸困難といった症状は、お腹の赤ちゃんにとっても大きな負担となります。そして、さらに深刻なのが、お腹の赤ちゃんへの影響です。妊娠の時期によって、そのリスクは異なります。特に危険性が高いのが、妊娠初期、およそ妊娠二十週までに初めて水疱瘡に感染した場合です。この時期に感染すると、ウイルスが胎盤を通じて赤ちゃんに感染し、「先天性水痘症候群」という重い障害を引き起こす可能性があります。その確率は一パーセントから二パーセントと高くはありませんが、もし発症した場合、赤ちゃんには皮膚の瘢痕、手足の低形成、小頭症、白内障といった、生涯にわたる障害が残ることがあります。一方、出産直前の時期、具体的には分娩の五日前から分娩後二日までの間にお母さんが発症した場合も、非常に危険です。この場合、赤ちゃんは、お母さんから十分な免疫(抗体)をもらえないまま、産道や出生後の接触でウイルスに感染してしまいます。そして、生後五日から十日頃に「新生児水痘」を発症します。新生児は免疫力が未熟なため、非常に重症化しやすく、致死率も高いとされています。これらの深刻なリスクを避けるために、最も重要なのは妊娠前の対策です。妊娠を希望する女性は、まず自分が水疱瘡にかかったことがあるか、抗体を持っているかを確認することが大切です。抗体がない場合は、妊娠する前に必ず水痘ワクチンを接種しておきましょう。ワクチンは生ワクチンのため、妊娠中の接種はできません。接種後二ヶ月間は避妊が必要です。未来の赤ちゃんを守るため、正しい知識を持ち、計画的に準備を進めることが何よりも重要です。