私の恋人、健太の様子がおかしいことに気づいたのは、ある週末のことでした。普段は食欲旺盛な彼が、好物のカレーライスを前にして、なぜか箸をつけようとしないのです。「どうしたの?」と尋ねると、「いや、なんだか口の中がピリピリして、味がよくわからないんだ」と、力なく笑いました。その時は、仕事の疲れが出ているのだろうと、さほど気に留めませんでした。しかし、その翌日、彼の異変はさらに顕著になりました。会話の数が減り、時折、顔をしかめて口元を押さえています。心配になった私が「ちょっと口の中を見せて」と促すと、彼はためらいがちに口を開けました。その瞬間、私は息をのみました。彼の舌は、普段のピンク色ではなく、まるでジャムを塗ったかのように真っ赤に腫れあがり、表面には赤いブツブ-ツが無数に浮き出ていたのです。まさに、熟したイチゴそのものでした。この異常な光景に、私たちはすぐにただ事ではないと感じ、翌日、一緒に内科のクリニックを受診しました。医師は健太の舌を見るなり、すぐに溶連菌感染症を疑い、喉の迅速検査を行いました。しかし、結果は陰性。高熱や喉の痛みといった典型的な症状もありませんでした。医師は次に、彼の生活習慣について詳しく質問を始めました。最近の食生活、仕事の状況、ストレスの有無。そこで明らかになったのは、健太がこの数ヶ月、新しいプロジェクトの重圧から、昼食はカップ麺や菓子パンで済ませ、夜は付き合いの飲み会で深酒をする日が続いていたという事実でした。医師は血液検査を指示し、後日出た結果は、私たちの予想を裏付けるものでした。健太は、極度のビタミンB群欠乏と、貧血の一歩手前の状態に陥っていたのです。あの「いちご舌」は、彼の体が栄養不足と過労に対して発していた、悲鳴にも似たSOSサインだったのです。その日以来、私たちは食生活を完全に見直しました。私がビタミン豊富な野菜中心の食事を作り、健太も外食を控えるようになりました。バランスの取れた食事と十分な休養を心がけるうちに、彼の舌は徐々に元の健康な色を取り戻していきました。恋人の舌が教えてくれた、健康の尊さ。それは、私たち二人にとって忘れられない出来事となりました。
彼の舌が真っ赤に。それは体からのSOSサインだった