「いちご舌」と聞いて、多くの医療関係者が溶連菌感染症と共に思い浮かべるのが、「川崎病」です。川崎病は、主に4歳以下の乳幼児に好発する、全身の血管に炎症が起こる原因不明の病気です。しかし、非常に稀ではありますが、青年や成人でも発症するケースが報告されており、「成人川崎病」と呼ばれています。大人が発症した場合、典型的な症状が揃いにくく、診断が遅れがちになるため、特に注意が必要です。川崎病の診断は、特徴的な6つの主要症状のうち、5つ以上を満たすことでなされます。その症状とは、①5日以上続く原因不明の発熱、②両眼の結膜の充血、③唇の発赤や乾燥、そして「いちご舌」、④体に現れる不定形の発疹、⑤手足の硬いむくみと、回復期に見られる指先の皮むけ、⑥首のリンパ節の腫れ、です。大人の場合、これらの症状がすべて揃うことは少なく、発熱と発疹だけ、あるいは発熱とリンパ節の腫れだけ、といった非典型的な形で発症することが多いとされています。しかし、診断の重要な手がかりとなる「いちご舌」は、成人例でも比較的高頻度で見られる症状です。川崎病が最も恐ろしいのは、心臓に栄養を送る重要な血管である「冠動脈」に炎症が及び、「冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう)」というこぶを作ってしまう可能性があることです。このこぶが原因で、将来的に血管が詰まり、狭心症や心筋梗塞といった命に関わる病気を引き起こすリスクが高まります。この合併症を防ぐためには、できるだけ早期に診断を確定し、免疫グロブリン大量療法やアスピリン療法といった、血管の炎症を抑える治療を開始することが不可欠です。もし、大人が原因不明の長引く高熱と共に、いちご舌、目の充血、発疹などの症状を複数経験した場合は、「ただの風邪」と自己判断するのは非常に危険です。すぐに、循環器内科や膠原病・リウマチ内科などの専門科がある総合病院を受診し、川崎病の可能性を念頭に置いた精密検査を受ける必要があります。いちご舌は、稀に潜む重篤な病気の警告サインかもしれないのです。
大人の川崎病とは?いちご舌に隠された重篤なリスク