あれは忘れもしない、三十歳の誕生日を目前に控えた春のことでした。最初は、ただの風邪だと思っていました。体が鉛のように重く、関節の節々が痛み、熱も三十八度を超えていました。市販の風邪薬を飲んで二日ほど寝込んでいたのですが、症状は一向に改善しません。そして三日目の朝、鏡を見て愕然としました。顔や首筋に、虫刺されのような赤いポツポツがいくつも現れていたのです。その日の午後には、発疹はお腹や背中、そして頭皮の中にまで広がり、それぞれが水ぶくれに変化していきました。耐え難いかゆみが全身を襲い、私はそこでようやく、これがただの風邪ではないと悟りました。休日診療所に駆け込むと、医師は私を一目見るなり「あ、これは大人の水疱瘡ですね」と告げました。その日からが、本当の地獄の始まりでした。処方された抗ウイルス薬を飲み始めましたが、症状のピークはこれからでした。熱は三十九度台まで上がり、意識が朦朧とする中、全身を襲うかゆみとひたすら闘う日々。かゆみは波のように押し寄せ、気が狂いそうになるのを必死でこらえました。特に辛かったのは夜です。寝ている間に無意識にかきむしってしまうのを防ぐため、両手に手袋をして眠りましたが、それでもかゆみで何度も目が覚めました。水ぶくれは口の中や喉、さらにはまぶたの裏にまででき、食事を摂るのも水を飲むのも激痛が走りました。体重は一週間で五キロも落ち、体力も気力もすっかり削られてしまいました。結局、会社を二週間近く休むことになり、同僚にも多大な迷惑をかけてしまいました。ようやく全ての水ぶくれがかさぶたになり、医師から外出許可が出た時、私は心から安堵しました。しかし、顔や体に残った無数の痕を見るたびに、あの壮絶な闘病の日々を思い出します。大人の水疱瘡は、本当に恐ろしい病気です。私のこの辛い経験が、まだ未感染の方々への警鐘となればと願ってやみません。