大人の水疱瘡が「危険だ」と言われる最大の理由は、子供に比べて重篤な合併症を引き起こす確率が格段に高いことにあります。かゆみや高熱といった症状そのものもつらいですが、本当に警戒すべきは、その先に待ち受けているかもしれない、命を脅かす病気の存在です。中でも、特に頻度が高く、注意が必要なのが水痘肺炎です。これは、水痘帯状疱疹ウイルスが肺にまで及んで炎症を引き起こすもので、成人の水疱瘡患者の五人に一人程度に合併するとも言われています。発疹が出てから数日後に、激しい咳や胸の痛み、呼吸困難といった症状が現れたら、水痘肺炎を強く疑う必要があります。特に、喫煙者や妊娠中の女性は重症化するリスクが高いとされており、入院して専門的な治療を受けなければ、命に関わることもあります。レントゲンを撮ると、肺全体に特徴的な影が広がっているのが確認できます。もう一つ、非常に稀ではありますが、極めて危険な合併症が脳炎や髄膜炎です。ウイルスが中枢神経系にまで達し、脳や脳を包む膜に炎症を起こす病気です。激しい頭痛や嘔吐、意識が朦朧とする、けいれんを起こすといった症状が現れます。発症した場合、速やかに入院して集中治療を受けなければ、深刻な後遺症が残ったり、最悪の場合は死に至ることもあります。その他にも、ウイルスが肝臓に感染して肝機能障害を引き起こす肝炎や、血小板が減少して出血しやすくなる血小板減少性紫斑病、心臓の筋肉に炎症が起こる心筋炎など、全身のあらゆる臓器に合併症が起こる可能性があります。これらの合併症は、発疹の数や症状の強さとは必ずしも比例しません。たかが水疱瘡と侮り、自己判断で様子を見ているうちに、手遅れになってしまう危険性があるのです。大人の水疱瘡は、全身を襲う感染症であるという認識を持ち、少しでも普段と違う異常を感じたら、ためらわずに医師に相談することが何よりも重要です。