かかとの後ろの痛みで悩む人の中には、不思議と片足だけに症状が集中するケースが多く見られます。その代表的な原因が「アキレス腱付着部症」です。これは、アキレス腱がかかとの骨に付着する部分に、繰り返しのストレスがかかることで微細な損傷や炎症が生じ、痛みや腫れを引き起こす病気です。では、なぜ左右均等ではなく、片足だけに起こりやすいのでしょうか。その理由は、私たちの日常生活の中に潜む、体の使い方のわずかな偏りにあります。例えば、多くの人には利き足があるように、歩く時や階段を上る時、無意識のうちに片方の足で強く地面を蹴り出している傾向があります。このわずかな癖の積み重ねが、片方のアキレス腱付着部への負担を増大させるのです。また、立ち仕事などで左右どちらかの足に体重をかけて休む癖がある人も同様です。さらに、スポーツにおいても、ランニングフォームの崩れや、ジャンプの着地時の癖などが、片足への過剰な負荷に繋がります。靴の問題も見過ごせません。特に、かかと部分が硬い革靴や、サイズが合わずに歩くたびにかかとが擦れるような靴を履いていると、物理的な刺激が直接アキレス腱の付着部に加わり、炎症を引き起こします。症状としては、運動後や朝起きて歩き始めの一歩目に、かかとの後ろに鋭い痛みを感じることが多いです。進行すると、安静にしていても痛むようになり、かかとの後ろが赤く腫れてくることもあります。治療の基本は、まず原因となっている負担を取り除くこと、つまり安静です。そして、ふくらはぎの筋肉が硬くなっていることが多いため、アキレス腱をゆっくりと伸ばすストレッチが非常に重要になります。整形外科では、これらの指導に加えて、痛みを和らげるための消炎鎮痛薬の処方や、靴の中に入れるインソール(足底挿板)の作成などを通じて、つらい症状の改善を目指します。